それぞれの時間が触れた時 - FATE / DRIPPIN
FATEの自分なりの解釈と感想の記録。
FATEの意味
楽曲名を見たときにまず思ったのは「アルバム最終曲にネガティブな楽曲?」というものでした。というのもfateという単語は韓国語日本語どちらにせよ運命という言葉で訳されますが、基本的にマイナスのニュアンスを持って使用されるからです。一方「運命を英単語で言うと?」と聞かれたとき、大多数のひとが思い浮かべるであろうdestinyはポジティブなニュアンスで使用されます。
そんなわけで当初私は「ドリピンの不穏曲は絶対嫌…嫌…(参考:ハリポタ組み分けのシーン)」とザワザワしましたが、ニュアンスが生まれた背景に着目するとfateという単語が使われた理由が浮かび上がります(まあ最後にdestinyも出てくるので大したこだわりはないんでしょうけど…)
FateとDestinyの違いは「意思の介在」です。
①「Fate」は「決められた/自分の力では変えられない」運命を表し、~
②「Destiny」は「与えられた/託された」運命を表し、~
「初めからそうなる運命」と「数多の選択の末に生じた運命」では意味が大きく変わります。
また、コレオは指切りのサインをポイントとしていて、“Fate“という単語が歌われるとき必ず使われます。自分たちが出会うことはずっと前から約束されていたといいたげに。また、それと同時に相手を守り続けていくことを誓っているようにも思えます。
きっと彼らはこの楽曲で自分たちの強い結びつきを声高らかに祝福し、その奇跡を守っていくことを約束しているのではないでしょうか。
너は誰を指すのか
まずは公式の楽曲説明から。
밝고 청량한 사운드와 DRIPPIN(드리핀)의 풋풋한 보이스가 돋보이는 퓨처 팝 장르의 ‘FATE’는 우리의 모든 순간이 우연이 아닌 운명인 만큼, 너와 나, 그리고 우리에 대한 소중함과 응원의 메시지를 담은 노래이다.
明るく爽やかなサウンドとDRIPPINのフレッシュな声が特徴のフューチャーポップジャンルの「FATE」は、私たちの全ての瞬間が偶然ではなく運命であることから、あなたと私、そして私たちに対する大切さと応援のメッセージを込めた歌である。
上記のように『FATE』はいわゆるファンソングにあたる楽曲です。実際コレオやジェスチャーでは”너”という部分でカメラつまり私たちファンを指差し、「DRIPPINとファン」の関係性を立ち上がらせるパフォーマンスをしています。
ですが、私はここにもう一つの視点を加えたいと思う。それは”너”はメンバーを示唆しているという視点。この視点を持つことでさらに楽曲の暖かみが増すのではないでしょうか。要するに、『FATE』は私たちファンにとっても彼ら自身にとっても肯定の歌として存在しているということ。
肯定してくれる存在を持つこと
肯定ときくと、つい最近まで事務所の先輩であるGolden ChildがYES.というアルバムで活動を行っていたのが思い出されますが*1 、『FATE』でもその肯定というテーマが見え隠れしています。
운명처럼 나를 이끄는 너라는 World
초대해줘 고마워
運命のように僕を導く君という World
招待してくれてありがとう
普段生活していて自分の世界が良い場所だと思えることはあまりありません。自分の世界を良い場所にするために出会いや安らぎを求めて生きる、そんな果てしない作業の中で出会った存在が”自分の世界”に存在できたことに幸福を覚える、こんな嬉しいことはありません。自分の世界が誰かにとってのユートピアになること、それは自分の存在が肯定されたことを意味しているようなものだから。
너를 둘러싼 모든 게 조금씩 버거울 때
이게 맞는 길인지도 가끔씩 헷갈릴 때
君を取り巻くすべてが 少しずつ手に負えなくなる時
これが正しい道なのか たまに混乱する時
허공에 허우적대며 제자리 걸음일 때
자욱하게 낀 안개가 눈 앞에 펼쳐질 때
宙でじたばたしながら足踏みする時
立ち込めた霧が目の前に広がる時
困難に出くわす”君”の様子を受けて、”僕”は
널 믿어도 돼 눈을 감고 그저 한 걸음을 떼
너라는 그 자체만으로 좋으니까
君を信じてもいい 目をつぶってただ一歩踏み出す時
そのままの君でいいから
ひたすらに”君”を肯定します。
(話が逸れますが、Allegory of ‘DRIPPIN’の扉を開けるシーンや今回のタイトル曲Young Bloodの歌詞などからみられるように、DRIPPINがメインに据えているテーマは「前進」のような気がします)
最後には
Be yourself 自分らしく
ヒョプがダメ押しの一発!という感じで歌ってくれます。
踏み出す(=挑戦)という行為は自分自身への信頼に基づいて行われるもの(と個人的に捉えています)で、それを目をつぶって行うとなると自分自身への信頼度は相当高くなければなりません。そんなとき”僕”は「そのままの君でいい」とありのままを肯定し背中を押す。誰かに肯定された経験、それは自分を信じる理由になり得ます。そんな経験をアイドルが楽曲を通じてファンや自分たちに向けて作り出す姿はとても美しく映ります。
また、DRIPPIN内での“肯定“の様子は外野の人間であるファンでも確認することができます。X枠として戻ってきたドンユンを受け入れるメンバーの様子やヒョプを事務所に根気強く呼び込んだチャンウクとドンユンのエピソード、X1の活動が予期せず終了してしまったジュノを優しく受け入れるメンバーの姿。「そのままの姿が好き」「私にはあなたが必要」という気持ちを常に伝え合ってきたメンバーが歌うからこそ、『FATE』は眩しく輝いているのかもしれません。
それぞれの時間が触れた時
아련히 떠오른 순간이
너와 나의 시간이 또 스쳐가
이미 바라오던 날들이 현실이 돼가
おぼろげに浮かんだ瞬間が
君と僕の時間が また触れる
すでに望んでいた日々が現実になっていく
“すでに望んでいた日々“というフレーズを元に「おぼろげに浮かんだ瞬間」「君と僕の時間」が示唆するものを考えます。私は「おぼろげに浮かんだ瞬間」をふとしたときに漠然とした夢が思い浮かんだ時、と捉えます。次に「君と僕の時間」は今まで交わることがなかったそれぞれの時間であり、その中で各々が抱いていた意志の強い夢と捉えます。明瞭度は違えど、どちらも夢であることには変わりません。
そういった「“君“のおぼろげに浮かんだ瞬間」「“僕“のおぼろげに浮かんだ瞬間」「”君”の時間」「”僕”の時間」が触れたとき、「君と僕”それぞれ”抱いていた理想」が「”私たち”の現実」となって重なる。
この部分を図解するならば光の三原色の図みたいな感じ?バラバラに存在していたそれぞれの瞬間・時間が重なる場所、「運命」が現象として認識できる場所(白にあたる部分)こそが現実だということ。
そしてこの歌詞は楽曲唯一のユニゾン歌唱パートであるサビの"oh~oh~"部分で表現が行われています。まさにここはそれぞれの声・その声が生まれるまでの時間がこの瞬間に交わり、奇跡を祝っている部分といえます。「お互いが触れたことで”私たち”の現実が生まれている」、そんな捉え方ができるのではないでしょうか?
また、ついこの前のVライブでチャンウクが「いつかコンサートをするときは、FATEを最後の曲にしたい。"oh~oh~"の部分でファンのみんなが泣きながら一緒に歌う姿を想像したりする(雑訳)」と話していたように、いつかこの部分はメンバーだけではなくファンを含めた「交わりの瞬間」となり、現実に存在するものとなる。
チャンウクが描くおぼろげな瞬間が現実となる日がくることを心待ちにして。
『빛』を経て
Boyager感想記事で、「光」がテーマになったEPだと書きました。ですが、今回のA Better Tomorrowにおいても同様のテーマを感じられます。つまり「光」はEPにおけるテーマではなく、グループのイメージとされているということ。
歌詞や映像を振り返ってもらえばわかるんですけど、Allegoryでは扉の先の光に導かれ、『Shine』では太陽・月の光に照らされ、『물들어』ではぼんやりした自分の心に光が差し込み、『Young Blood』では日差しの下で目を覚まし、『Firefly』では二人が流した涙が一握りの光になり………と該当部分を挙げ出すとキリが無いくらい「光」に意識が置かれています。それぞれ制作者違うのにこんなに整いますかね?というくらい。他にもクロスオーバーしている箇所あるので暇なひとはみてみてください~!
そんな中でもFATEと同じ側面(EP最終曲・ファンソング)を持つ、前回EP収録曲『빛』との関係について。
『빛』の歌詞は自分たちが歩んできた過程において”君”がどれだけ救いになったか、これに対し『FATE』は自分たちが”君”にとっての救いの存在になろうとする意味合いが強く、”君”と”自分”の間にある矢印の方向が異なっています。
난 알 수 없었어 얼마나 걸릴지
주저하는 내 두려움에 겁이 났었어
이젠 다 뿌리쳐 날 가로막았던
굳게 닫힌 문을 열고
僕は分からなかった どれだけかかるか
躊躇する不安に怖気づいていたんだ
いつかは全部振り切って 僕を塞いでいた
固く閉ざされた扉を開けて
-『빛』
”君”の存在によって扉を開ける決心がついた”自分”が
너를 둘러싼 모든 게 조금씩 버거울 때
이게 맞는 길인지도 가끔씩 헷갈릴 때
널 믿어도 돼 눈을 감고 그저 한 걸음을 떼
너라는 그 자체만으로 좋으니까
君を取り巻くすべてが 少しずつ手に負えなくなる時
これが正しい道なのか たまに混乱する時
君を信じてもいい 目をつぶってただ一歩踏み出す時
そのままの君でいいから
-『FATE』
そのときの”君”の存在になろうとする。
날 멈추게 했어 난 불안해
날 병들게 했던 말 때문에
나일 수 없어서 날 수 없었던
내 귀를 막은 벽 뛰어넘겠어
僕を止まらせた 僕は不安で
僕を蝕んだ言葉のせいで
僕でいられなくて飛べなかった
僕の耳を塞いだ壁を乗り越えてみせる
-『빛』
自らの壁を乗り越える物語が
무언갈 넘어 높이 더 높이 더 날아
전부를 함께 할게 It’s a FATE
何かを越えて 高く もっと高く 飛んで
すべてを一緒にやるよ 運命だから
-『FATE』
”君”と一緒に壁を乗り越える物語に変わる。
『빛』を経た彼らが歌うことで、より意義深い歌詞になっていることがわかります。「前進」をテーマに据えたグループが、楽曲で時間経過の表現を行う。 こうした表現によって『빛』と『FATE』はDRIPPINとファンの思い出の栞となっていくのだと思います。
おわりに
『A Better Tomorrow』リリース時、フォロワーさんがDRIPPINのEPについて「彼らの歳でするのに最大限自然かつ挑戦的でもあるみたいな絶妙のラインで表現できる部分の究極形態」とおっしゃっていたのにものすごく同意したのですが(引用すみません)、私もDRIPPINは彼らの意思やそのままの姿がなるたけ尊重されたグループという印象を持っています。だからその~~~なんというんでしょう、この先リリースされる楽曲では『FATE』を経た彼らの物語、新しい成長がみられるような気がしていて楽しみです。
たくさんのアイドルが多様なコンセプトで活動をする中で「自分たちの話」をするアイドルは稀有な存在となりつつあります。いちオタクの願望だけどこれからも「自分たちの話」「自分たちの未来」を私たちにみせてくれたら、と思います。 おわり!
미니 5집 타이틀명 ‘YES.’는 앨범 전체를 관통하는 주요 키워드이며, 어둡고 혼란스러운 세상을 향해 던지는 긍정의 메시지이기도 하다.
5枚目のミニアルバムのタイトル名「YES.」はアルバム全体を貫く主なキーワードで、暗くて混乱した世界に向けて投げかける肯定的なメッセージでもある。